「はい」
「…光…?」
私は目をみはった。
なぜ光が手を上げているのか、理解ができなかった。
「はい、じゃあ浅川さんは最後の5番目に発表ね」
「はい!」
教師の声に光は元気よく返事をしていた。
光が立ち上がるときまで、私は他の生徒の発表など耳には入らなかった。
「それでは、浅川さんお願い」
原稿用紙を持ち、静かに立ち上がる光。
家の事情を少し知っている生徒や保護者はボソボソと何かを話していたが光は気にもせずに口を開いた。
「私の家族は、私とお父さんです」
「ひか…」
「お父さん」
私の横には光の担任が立って、静かに微笑んでいた。
「聞いてあげてください、光ちゃんの気持ち」
「お父さんは、いつも一人でお仕事をがんばっています
私はまだお仕事ができません
だから、夜ご飯は私がつくります、お父さんはどんなにまずくても残さずに食べてくれます
だから毎日頑張って作ってます。
お父さんはいつも笑ってるけど、たまに無理して笑ってます
たぶんそれは会社の上司にいじめられたからです」
悪意のない無邪気な言葉に周りの大人はクスクス笑った。
「だから大きくなったら私はお父さんをまもるヒーローになります
それでお父さんの敵をやっつけます
今はお父さんが私を守ってくれてるから、今度は私がお父さんを守ります!
お母さん、お父さんと出会ってくれてありがとう
ひかりは、この家族が大好きです」
太陽のような笑顔を私に向けた。
子供のような子供らしい単純な作文だった。
大好き、そんな単純な言葉。
それでもなぜか涙があふれてきた。
