「ねぇ浅川」
「え…な、なんだよ」

紗江と出会ったのは高校に入学してしばらくの時だった。
内気で友人もいなく、休み時間は一人で過ごし時には他の男子生徒たちに嫌がらせを受けることもあった。

一人で席に座っていたとき突然話しかけてきたのが紗江だった。
明るく、少々勝気な所もあったが友人たちが多くいつも誰かに囲まれていた。

「あんたってさ…本当イライラする」
「いきなりなんだってば」
「やられたならやり返せばいいでしょ」
「そんなの、またやられて繰り返すだけじゃないか」
「ふーん…その言い方さ、やろうと思えばやれるってこと?」

紗江の言い方にイラッときた当時の私はムキになり、

「なんだよ、やってやるさ、一発殴ってやる!」

と強く言い返してしまった。
紗江は少しの間唖然としていたが腹を抱え笑い出した。

「…あはは!まぁ、頑張れば」

もちろん私にはそんなこと出来るはずもなく、放課後は体育館裏でボコボコにされてしまった。

「普通さぁ、本当にやるかな」
「…」
「もう、ごめんって」

紗江は眉を吊り下げ私に絆創膏を差し出してきた。

「…ありがとう」
「…だってさ、教室でもボロクソ言われて悔しくないの?」
「僕は勉強さえできればいいよ」
「つまんな…」

隣に腰掛けると、頬杖をつきながら私をまじまじと見つめてきた。
なんだかくすぐったくて顔をそらした。

「なんだよ…」
「別に?よく見ると意外にかっこいい顔してるなあって思っただけ」
「は…!?」

思わぬ言葉に驚き私は紗江を見た。
白い歯を見せ太陽のように笑っていたあの笑顔が忘れられない。