「テーブルの上、邪魔」

大皿に出来上がったものを盛り付けて運んできた彼女は、布団の上に寝転がっている俺を睨み付ける。

「悪い。いま片付ける。……いい匂いだなぁ」
「ホイコーロ」

折り畳み式の小さなテーブルの上にどんっと皿を置いて、彼女は台所に戻っていった。

ホイコーロなんて、独り暮らし始めてから家で食べたことないぞ。

ぼんやりしているうちに俺の目の前はご飯やら箸やらが用意されていく。

「味噌汁食べる?今朝の、余ってるやつ」
「おう」

そう返事すると彼女はおわんを持ってきて、それをご飯茶碗の横に置く。味噌汁が入っている。

「いただきます」

彼女は台所に戻ることなく、俺の隣に座って俺が食べるのをじっと見つめている。

「嬢ちゃん、食わねぇの?ごはん余ってるだろ?」
「おっさん好きなだけ食べなよ。私あとでいい」
「小食なのか?」
「…………」

黙り込んだということは、別に小食だというわけではないのだろう。勝手に人の家に上がり込んでいるという引け目でもあるのか。

「ホラ、あーん」
冗談のつもりでホイコーロを差し出すと、彼女は動揺することなく食らいついて、逆に自分が動揺する。

「おい、間接キスしたかったのか?」
「………おっさん、童貞でしょ」
「黙れよ。女子高生なんだから恥じらいを持て」
「否定しないんだ」
「すげぇだろ。俺、魔法使いなんだぜ」
「魔法で彼女作りなよ」

可愛いげのねぇヤツ、と思いながらごはんを口に入れた。

「お前さ、」

俺の隣に黙って座っていた彼女が顔をあげる。

「もう少し愛想良ければ良い奥さんになるぞ」

彼女は赤面して、何か言おうと口を開くが、諦めたのかまたうつむいた。

「なーんだ、恥じらいは一応あるのか。俺、嬢ちゃんの恥じらいポイントがいまいちわかんねぇや」

間接キスと童貞が平気で奥さんが恥ずかしいのか。何なんだろうな。

「おっさんの秘蔵のエロ本捨ててやる」
「残念だな。俺は女に困ってないからそんなもん秘蔵してない」
「タンスの二段目の引き出しの奥」
「………降参」

彼女は勝ち誇った顔をして台所にいった。
俺は口じゃコイツに勝てない。