その時、家の中に電話の音が鳴り響いた。
あたしも母親も、静かになって電話を見つめた。
母親が受話器に手を伸ばす。
「やだっ…出ないでっ……」
あたしは必死に母親を止めたが、母親はすでに受話器を取っていた。
「もしもし」
何も知らない母親は、いつもどおりに電話に出た。
そして、険しい顔をして受話器を見つめた。
「誰かしら? 切られちゃった」
サクラだ。絶対にサクラだ。
あたしは怖くなって、また泣き崩れた。
「ちょっとナオ!? どうしたの!?」
「やだっ…やめてよ……やだよ…」
泣きわめくあたしを押さえるようにして、母親はあたしを抱きしめた。
「ナオっ! どうしたの?
泣いてばかりじゃ分かんないでしょ!?」
「いやっ…ヒロキ……いやだよ…」
「ヒロキ?
ナオっ、ヒロキって誰なの?」
あたしは無意識のうちに、ヒロキの名前を口にしていた。

