「ここは、χと…」
「……………」
「おい、コラ。
聴いてんのか?」
「…へ?…あー…聴いて…
聴いてるよ!」
「…変なヤツ。
じゃあ続きだけど…」


そう言って淡々と話し出す先生。


あー…うー…

ヤバい…心臓の音…高過ぎ…


どうしてだろう……?


「ぉ…い………
おいっ!聴いてんのかっ!?」
「あ…ぅ…き…聴いてる!……」
「はぁー…
じゃあ罰ゲー………」
「嫌々!」
「じゃあ聴け。分かったな?」
「は…はぁーい……」


自分の胸の高鳴りの原因が分かった。


「ここをуで…」


近い……………


近すぎる……………


想定、5cm。


ヤバい…


恋愛感情が無くっても…異性がこんなに近くにいると胸って高鳴るんだ………。


「ふ~ん…」
「うん………」
「そっかぁ…」
「うん………」
「南波はそんなに罰ゲームしてほしいんだぁ…」
「うん………
ってえぇえぇッ!?」
「今うんって言ったよなぁ……?」


そう言ってニヤリと微笑む先生。


「なッ!
んな訳ないじゃ……
ちょっ…先生!?」


私は気付くとソファーに押し倒されていた。


「南波?」


私は目をきつく瞑った。


「男はこんな奴等ばっかりなんだから、
気をつけろよ?」
「……………ふぇ?」


先生はソファーから降りてカバンからプリントを出した。


「よしっ!
次はこのプリントだ!!」
「…………は…はい」


私は訳も分からず頷いた。


それから何事もなかったようにプリントをして。


たまに頭を小突かれたけど。


楽しくやっていけそうな感じがした。


この時気付かなかった、
私と先生の距離、


“5㎝”への気持ち。


とっくに心なんて、
奪われていたのかもしれないね。