こんなに人がいるのにどうしてぶつからないのだろう。
――――葵だからだ。
あのときに私を助けてくれた葵だからだ。
白くかすんでいた視界が、徐々にはっきりとしてくる。
「危ないじゃない!!」
私たちをよけようとして、道に尻もちをついた女の人が、甲高い声をはり上げた。
葵はおかまいなしに走り続ける。
大きな歩幅で、軽やかに跳ねるように。
私の手をぎゅっと握って。
正門から学校を出ても走り続けた。
いったいどこまで行くのだろう。
あのときと同じ――――。
国道沿いを走り続け、人気のない公園に飛び込み、葵はようやく足を止めた。
「ここまで来れば、大丈夫。」
大きく肩で息をしながら、葵が言う。
「なにが……、大丈夫なの?別に私……、なんともなかった……んだけど…」
私も肩で息をしながら答える。
走っているときは意識しなかったのに、立ち止まった途端、酸欠状態だ。
視界はすっきり晴れ、今度は心臓が悲鳴をあげている。
これでいい、魂はここにあるということなのだから。
葵が大きく深呼吸をした。
すっきりとした顔で私を見る。
「美桜が裕也に変なこと言ったあと、SHRになったじゃん。それで、先生が話してるときに、美桜をふと見たら、顔が真っ青でさ。“このままだと美桜が死ぬ”そう感じて、美桜を連れて逃げ出した!!どうしてそんなふうに感じたのかはわかんないけど。―――――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ」
そう言うと、何が面白いのか、ゲラゲラと笑い出した。

