「美桜。」

はっとして顔を上げると、

「ななせ…」

辛そうに肩で息をしながらも、しっかり男の子を抱いているななせが…目の前に、いた。

美桜。

愛しい人の名前を呼んでいるのだろうか。

何故そんな哀しそうな顔をしているのだろうか。

違う…美桜は、私。

この人は、だれ?

「裕也…」

ねぇ、私はなにを想っていたのだろう。

なにを信じていたの?

どさっと裕也は、浜辺に倒れ込んだ。

「美桜…もし、今、大月ななせが…目の前にいるとしたら…なんて言う?」

呼吸をする音で、よく聞こえない。

「なんでそんなこと聞くの?早く、救急車っ…」

「いいから…答えて…」

裕也が私の腕を掴む。

目の前に、いたら…?

伝えたいことは山ほどある。

けど、その中でも、私が一番伝えたいことは。

「…なんで約束破ったの?私、許してないよ。許さないよ、一生。でも、許すから、許してあげるからっ、生きて、帰って来て…」

言いきると、ひとりでに涙が溢れてきた。

溢れて溢れて、止まらない。

「ごめんな。やっぱりオレは、お前を支えることができない。」

ああ終わった。

素直にその気持ちだけが、すとんと落ちてきた。

「いつか、いつかは俺のこと見てくれると思ってたんだけど。もう、頑張れないよ。」

人は、心の扉が開いたとき、涙を流すという。

だから、私も泣いたんだ。

確かに運命は変わった。

変えてくれた。

裕也とななせは違う人だって、最後の最後まで気が付けなかった。

やっと気がついて、過去にしがみつかなくても、生きていけると思ったのに…

もう、遅かったんだね。

全てが遅すぎたんだ。