「やっぱりここだったかぁ。さっさと来ればよかった…」
階段を駆け上がり、重い扉を開ける。
緑のコンクリートの床、白い柵、広い空。
「美桜。」
伊吹が振り向いた。
「伊吹と皐月ってホント双子だよね。悩みがあったら、絶対屋上。で、伊吹はなにを悩んでるの?」
「お前…なんで俺が悩んでるってわかるんだよ」
伊吹が前を向きなおす。
「勘?」
私はくすくす笑った。
伊吹の隣りに体育座りで座る。
「お前には隠し事できねぇな…俺さ、皐月に負けた。テスト。」
伊吹は前を向き続けた。
「はあ?それだけ?4位で充分でしょうが!!」
「テストだけじゃない…運動も、絵も字も友達作りも、先生に気に入られるのだって!!いつも、俺は皐月に、負けるんだ。」
少し伊吹は顔をしかめた、ように見えた。
「別に大丈夫でしょ」
私は軽く言う。
「気休めならやめろ」
「気休めでも何でもないよ。だってあんたは…努力できる人だもん。」
「それって本当なのかな…?オレはずっとそう信じてやってきたよ。
皐月の何倍も何倍も努力すれば…いつか皐月を超えることができる…そう信じてやってきた。
だけど、本当の天才には敵わないんじゃないかって最近思い始めた…
努力が本当に報われることなのか…それが知りたくて、皐月に勝とうとなんでも頑張ってもずっと同じ…歯が立たないんだ。
皐月と並べられる時もいまだに…足が震える…いくら努力したってダメなんじゃないかって…怖くて怖くてたまらないんだ!!
俺はどうすればいいんだよ!!」
「自分を信じない奴なんかに努力する価値はない!!」
きっぱりと宣言する。
伊吹がやっとこっちを向いてくれた。
「“皐月に勝つこと。皐月を超えること。”それが伊吹の我が道でしょ?
私は、別に他人と比べなくてもいいと思う。でも比べられてしまう。
それなら、我が道を行けばいい。いい目標じゃん…頑張る価値のあるいい目標だよ
だから、伊吹も自分の道を信じて突っ走ればいい!!
私が笑って見てられるぐらいの強い男になれ!!いいな!!伊吹!!」
優しく笑って、伊吹の頭を掻きまわす。
なにすんだよ、と伊吹が見てくる。
伊吹も、皐月も、頑張れ。
頑張れ。
大丈夫。
一人じゃないよ。
二人、だもんね。