「うっわぁ……凄い…」


会場内は、既に賑わっていた。


「結構来てるな。杏里、とりあえず挨拶回るぞ?」



「うん」


あたしは、優斗さんの後ろを、金魚の糞のように着いて行く。


仕事モードの優斗さんは、紳士的な雰囲気で、いつもの優斗さんじゃない。



初めて会ったときみたいだ。



「やぁ、高杉君。やっと来たんだな」



後ろから声が聞こえ、あたし達は振り返る。



「あ、監督。少し遅くなりまして」



……この人が、無駄に権力の高い監督~?!



その人は、グレーのスーツを着ている若い男性。



「あ、もしかして!高杉んとこの杏里ちゃん!?」



………はい?



彼の奥二重の切れ長の目が、大きく開かれる。



「え、はい。松本杏里です。今日は、お邪魔してすいません」



丁寧に頭を下げると、優斗さんの押さえた笑い声が耳に届いた。



「何笑ってるの?」



「いや、佐川先輩を見てなんとも思わないのかなってな」



佐川先輩?


「誰それ」


今あたし、監督さんと話してるんだけど。


「俺だよ。佐川隼人」



そう名乗ったのは、監督だった。



「俺と佐川先輩は、同じ高校なんだ」



「短大もだよ」



………あの、逆らえない存在の割には、仲良し過ぎない?