「奈緒さんじゃなくて、優斗さんです・・・」
ムッとして、楽さんを見ると、彼はキョトンとした。
そして、コーヒーを置くと、目で話を促してきた。
「・・・楽さんは、彼女に過去を知られるのが嫌ですか?」
そう尋ねると、楽さんは、「んー」と考える。
「まぁ・・・嫌かな。」
「やっぱり・・・」
やっぱりウザかったんだ。
どうしよう?
あたしはもう、優斗さんに嫌われちゃったのかなぁ?
「なんで?嫌って優斗に言われたのか?」
「言われては・・・いないけど。
ため息つかれたし・・・。
あたしのこと、面倒だったのかなって」
そう思ったら、普通じゃいられなくなっちゃって・・・。
あたしは、涙目を見られないように俯いた。
「杏里ちゃん、ちゃんと優斗の話聞いたか?」
「聞きたくないです!あたしを拒絶するようなこと言われたら、あたしはきっと、もう立ち直れません・・・」
スカートを力一杯掴み、必死に涙を抑える。
泣きたくない。
これ以上、重い女になりたくない。
あたしは・・・
優斗さんに嫌われたくない。
そんなあたしの様子を見て、楽さんはため息をつきながら、立ち上がった。
あ、 あたし、楽さんにも迷惑かけてる・・・。
不安になって顔を上げると、楽さんはあたしを
優しく包みこんだ。

