優斗はこれでいいのだ。と、殴られ続けた。
暫くして、ようやく楽が優斗の上から下りた。
息を切らせ、手には暗赤色の血が滲んでいる。
優斗の目は、ほとんど視界がなく、その日、どうやって家に帰ったのかも、分からない。
だが、優斗のお陰で、楽は奈緒の事を、
"優斗に無理矢理抱かれて、嫌になって二人とも縁を切った"と納得した。
だが、やはり楽にとって3年も付き合った彼女が、いきなり居なくなったのは辛かったのだろう。
その半年後、楽はフランスへと旅だった。
話が終わり、あたしは放心状態に陥った。
もちろん、優斗さんが女性との関わりが多いことなんて、分かりきってた。
でも、傷だらけになってまで、彼女の幸せを願うって、そう簡単に出来る話でもない。
だからちょっとだけ、悔しかった。
そんなに思われていた奈緒さんが、羨ましかった。
「杏里ちゃん?」
すっかり黙り込んでしまったあたしを、心配した様子で見つめる奈緒さん。
こんなに優しいんだもん。
惚れて当然なのかもしれない。
「すいません。ちょっと動揺しちゃって...」
てへっ!と、笑って見せるけど、奈緒さんは、あたしの心を見透かしているかのような目で、微笑んだ。
だからあたしは、一呼吸置いて、今度は苦笑した。

