「なんで奈緒がいるんだよ」
ホテルの一室。
いわゆるスイートルームに、低い声が響いた。
見ると、電話口に向かって声を発したようだ。
奈緒・・・さん。
フランスに来るのは2回目なのに、なんで毎回あの単語をここで聞かなきゃいけないんだろう。
優斗さんが"奈緒"と口にすると、あたしの中でいろんな感情がゴチャゴチャに入り交じる。
不安だったり、イライラだったり、悲しさだったり。
いつか顔も知らない奈緒さんのところへ、行ってしまうんではないか。という、焦りも出てくる。
優斗さんは、ジッと見つめるあたしの方に振り返る。
そして気を効かせたのか、優斗さんは部屋の外へ出ていく。
しかし、それは逆効果。
離れてしまう分だけ、どんどん複雑な感情が、取り巻く。
あたしに聞かれるとマズイ話なのかな?
実は奈緒さんと連絡取り合ってるのかな?
って、苦しくなる。
女の子って面倒だから、いろんな事を考えちゃうんだ。
もし、女の子じゃなくて、女性だったら?
今のあたしには、どんな対応をするのか、想像もつかない。
暫くすると、ドアの開く音がして、外から優斗さんが帰ってきた。
その瞬間に、不安のピークが押し寄せる。

