[完]大人の恋の始め方






「杏里大丈夫か?」



響くんから解放され、その場に座り込む。



なんか…、急に疲れた。



「馴れない状況で疲れたんだろ」


先生は、あたしの隣に座り込み、そっと頭を撫でた。



先生の手が、震えてると感じるのは、気のせいですか…?



あたしはひとつ深呼吸をし、先生を見た。



変わらない、大きな瞳。


その瞳には、昔と同じ、優しい光が宿っている。



どうして、この人を信じられなかったのだろう…?



どうして、本気で好きになってあげられなかったのだろう…?



この人は、こんなにあたしを大事にしてくれていたのに…。



「杏里…





















なんで、泣いてるんだよ?」





先生に言われて、初めて気付いた。



あたしの頬が濡れる。



先生は、親指でそれを拭き、切なげな表情を覗かせた。



「泣かすつもりなんて、無かったのにな」



「先生が悪いわけじゃっ……」



先生は、手を伸ばして、あたしに触れずに、下に突き落とした。



「悪い…。教師である俺が、こんな気持ちを持つなんて」



そう言って立ち上がる先生の袖を、掴んだ。



「待って…」



ジッと彼を見つめると、彼は観念したように、あたしに手を伸ばした。