[完]大人の恋の始め方





「あのねっ、優斗も同じことを私に言われてるのよ」



ビックリして目を見開けば、彼女はクスリと笑った。



「驚き…、でしょ?懐かしいわねぇ。でも、私に言われて優斗も、少しは大人になった」



再びコーヒーを口に運び、膝の上辺りでクルクルとカップを回す。




カップに向けられた優里花さんの瞳には、昔の記憶が甦っているようだった。



「優里花さんにも、そんな時期はあったんですか?」



暫しの沈黙。


不意に優里花さんが微笑んだ。


「あったわよ。昔…ね」



「誰でも、経験するものですか?」



あたしの経験は、あたしだけではないの?



子供の恋愛ごっこは、あってもいいの?



「そうねぇ、私もまだそんなに長い間生きているわけじゃないけど………でも、少なくとも私は通った道よ?」



ウェーブの掛かった茶色い髪の毛を耳に掛け、あたしをじっと見てくる。



その優しい瞳からは、あたしは安心と似た感情が胸を支配した。



「でも…、じゃあ優里花さんは、恋愛するのが怖くないんですか?」



分かってくれる。


そう思っていた。


しかし、その予想はハズれた。


「怖くないわよ?」