「じゃあ、杏里ちゃんはこの部屋使って?」


高杉さんは、あたしの為に客室を、私に用意してくれた。


「ありがとうございます。………うわぁ、広いっ」


その部屋は、想像を超える広さ。



「そう?…そういえば、杏里ちゃんは、それだけの荷物で足りるの?」



あたしが持っているのは、大きなキャリーバック1つ。


足りるわけがない。



「本当は、まだあったんですけど、持てないから諦めました。」



あたしは、高杉さんに笑顔を向けた。



が、次の瞬間、あたしは玄関の外に引っ張られていた。



「たっ高杉さん?!どこに行くんですか!?」


高杉さんは、ズカズカと進み、車まで来た。



「杏里ちゃん。まだ、家入れる?」


「え、はい。明日までは、あたしの家なので」


「案内して」



それだけ言うと、高杉さんは車を発進させた。



車の中の沈黙。
気まずい。



チラッと高杉さんを見れば、真剣に前を見据えている。


「あ、そこ右に入ってすぐの家です」


あたしが言った通り、右に曲がれば、今日出たばかりの家。


もうすぐ、あたしの家じゃなくなる。



あたしの家の前に車を止める。


「え、なんで」


高杉さんがぽつりと呟く。


「え、なんですか?」


あたしは聞き取れなくて、聞き直す。


「いや、なんでもない」


高杉さんは、そう言うと車を降りた。