その瞬間、ぎゅーっと抱き込まれ、彼の香水が、あたしの鼻孔を掠った。
無性に甘いその香りは、頭を麻痺させる。
驚きと麻痺で、あたしは彼を突き放すことも出来ずに、ただ嫌悪感を抱いた。
「おい、何抱き着いてるんですか」
と、ここで優斗さんの低い声があたしの耳に届く。
その瞬間、あたしの身体は覚醒し、彼を突き放した。
「なっ何するんですか!!」
そんなあたしの怒鳴り声にも動じず、ニコニコしている彼。
その図太い神経に拍手を贈りたいよ…。
「もしかして、名前分からないから焦った?」
そんなわけあるかッッ!!!
普通に抱き着かれんのが嫌なのよ!!!
余りに自由すぎる彼に、あたしは苦笑いしかできない。
「俺は、楽-ガク-。よろしくな」
「あ…、はい。ピッタリな名前ですね」
自由で楽しそうなところが。
「そーぉ?なんか嬉しいなぁ」
こっちの気も知らないで喜ぶ彼を、あたしは痛々しく見ることしか出来ない。
「そういえば、あたしの事気に入ったって…?」
「あー、ランウェイで見て思ったの!スゲーかわいいと思って、欲しくなった」
あー…、なるほど。
って、は!?

