そして、あたしは、
その死を選んだ人間の、一人だ。

「……翔瑠(かける)」


彼を失って気付いた。
人は死んでも、その人との思い出は死なないものだ。
彼は居ないのに、
思い出だけが消えないというのは、勇ましく恐ろしく苦しいもので、生きる気力すら無くなった。

死んでしまおう。

そうすれば彼に会える。
また、彼に会いたい。
翔瑠に会いたい。


信号が赤に変わって、
車が止めどなく走っていた。
今なら、行けるか。
足を一歩出した時、誰かに腕を捕まれた。


「危ないよ」


透き通ったような、小さな声が聴こえた。
確か横断歩道にはあたししか居なかった筈、なのに、振り返ると、少年が一人不思議そうにあたしの顔を見ていた。


「離しなさい」

「やだよ」

「離して」

「や」


……何こいつ。
あたし子供嫌いだ。
しつこいし、うるさいし。

でも、翔瑠は好きだったな、子供。