血も涙もない【短編集】





嬉しくて涙が出そうになったのは俺のほうだった。
アイツは姿が見えなくても、触れなくても、声が届かなくても、俺に気づいてくれた。

俺がここに居ることに気づいてくれた。


もう十分だ。



「花梨、ずっと君の傍に居たいけど、そろそろ逝かないと。出会ってくれてありがとう。恋をさせてくれてありがとう。愛してるよ」


届かなくてもいい。
きっと、この声は花梨に必要ない。
だって、知ってるだろ?
俺がどう想っているかなんて。


「ゆーれいさん?」


海羅は俺の方を見ずに、
花梨を見つめたままだった。
これでいいの?と言いたいんだろう。

俺は後ろからゆっくり海羅を抱きしめて耳元で囁いた。




「ありがとう、海羅」



そして、勢いよく振り返る海羅の顔を見る前に、俺は塵となった。