「歩美?」

その時、私の後ろから声を掛けてくる人物がいた。

「母さん。」

私はその優しい声に振り向くと、電気もつけていない台所の入り口に母さんがいた。

「またアリンさんの夢を見たの?」

「うん、いつも通りね。」

私はそう返事をしたが、母さんの(アリンさん)には何だか違和感を感じる。

夢の中のアリンは私の事だから。

何だか母さんにさん付けされている気がして変な気分になる。

「母さんは知らないの?アリンって名前に聞き覚えとか無い?」

私がそう聞いてみると、母さんはちょっと困った顔で考え込んだ。

「いつも言っているけど、アリンさんって名前の人は知らないわね。」

いつもの返事が返ってきた。