彼の武勇伝は、私の中にいくつもある。


風に飛ばされて、帽子を木に引っかけてしまった私が泣いていた時。


「大丈夫。
ボクがとりに行って来てあげる。」


私を残して、
零くんは危なっかしい動きで木を登っていく。


帽子が飛んで行っちゃったのと、
彼が落ちてしまうのではないかという不安な気持ちで、
私は泣きながら彼が私の帽子を取ってくれるのを下から見ていた。


帽子を取って、
少し高い木の枝から零くんが飛び降りる。


「はいっ!
もう泣きやんで?」


そう言って私に向かって変な顔をする。


それはいつまでも泣いている私が、
泣きやむようにと、小さな零くんがやってくれたのだった。