【音子side】

 もう屋上に来て何分…いや何時間が経ったんだろうか…。
 今日は雲1つもない綺麗な青空。こんなにも暖かくて気持ちいのに私の気持ちは最悪で冬の風がボロボロになった心を余計傷付けた。

 グランドでは体育の授業をやってるクラスが居た。男女で分かれてサッカーをしていた。

「…私、何授業さぼってんだろ…」

 私は心の声をボソッとつぶやいた。
 その時風がピューっと吹いて私の髪を乱していった。私は乱れた髪を直しながら再びグランドに目を向けた。

「…っ!」

 私はある1人の人に釘づけになっていた。

「…け、い」

 そうそれはサッカーをしている慧だった。
 慧は何も知らない様な顔で楽しそうにサッカーをしていた。

 何も考えないで、ただ慧と居れる幸せだけを感じて過ごして居たかった…。
 慧ともっと早く出会って早く慧と笑って居たかったな…。慧の笑顔をもっともっと近くで見て居たかった、もっともっと慧の優しさを感じて居たかったっ…。でもその願いも後2週間で終わってしまう。
 慧と別れたら私どうなっちゃうのかな…? 慧は突然別れを告げられたらどういう反応するのかな…? 想像もつかない…いや想像もしたくない…。
 あと2週間…タイムリミットまで慧の前では泣かないで居よう。そう心に決めた時、4時間目の授業を終えるチャイムが鳴った。

 私は重い足を教室に向かわせた。そしてドアを開けた…。
 ガラガラっ…。

 クラスは昼休みで皆お弁当や購買で買ったパンに夢中で私に気付いていなかった。
 私は1人で席に着いた。そしてお弁当を開こうとした時―――。

「音子っ!」

 突然名前を呼ばれた。呼ばれた方に向くと…朝無視した友達が立っていた。

「音子、何してるの? 一緒にお弁当食べようよ!」
「えっ…」
「えっ…じゃないよ、早くこっち来なよ」

 まるで朝の事は無かった様な感じがした。私は状況を理解出来ないまま友達の方へと向かった。
 多分、乃亜ちゃんが機嫌を直してそうしてくれたのに違いない。

「あの…音子…」

 友達が罰悪そうに話し出した。

「朝は本当にごめん…。いきなり手越乃亜って子が来て…

『音子は人の彼氏に手を出して奪う最低なヤツなのっ…。その被害者なの乃亜…、ねぇ許されると思う? 思わないよね! 音子ちゃんにちょっと痛い思いさせた方が良いと思うの!! だから皆で無視してあげて♪ …じゃないとどうなるか…覚えてきなさい』

 って言われてそうせざるを得なかったの…。本当にごめんなさい」

「ふふ…」

 私は思わず笑っちゃった。だって…そんな事さっき直接乃亜ちゃんに会うより可愛い行動だし…やっぱり敵わないなぁ。って余計自覚した。

「!?」
「ごめん…いいよ、気にしてない…」
「音子はそんな人じゃないって分かってるから! 絶対榎田君と別れちゃダメだよ!」

 ごめんなさい…心配してくれるのは嬉しいんだけど…もう遅いんだ…。

「…うん…分かったよ」

 こればかりは相談も誰にも出来ない…私1人で抱えて行く問題なんだ。
 色々考える事があって授業もろくに聞き入れられないし…ただただボーっとしてるだけだった。

 -帰りのHR終了後ー

「音子、帰んぞ」

 いつもの様にHRが終わると迎えに来てくれる慧…、いつもと変わらない笑顔の慧…。

「おい…聞いてんのかよ」

 慧に突っ込まれて我に返った。

「あ、うん…聞いてるよ、今行く」
「どした?」
「えっ…何が?」
「悩み事か?」
「ううん…何でもないよ」

 心配してくれる慧に嘘をつくのが余計胸をえぐる。

「慧! あのさ、これから毎日デートしよ?」

 少しでも…1分1秒でも長く慧と一緒に居たい。イブの前に思い出を沢山…。

「はぁ? なんだそれ」

 慧は少し私を小馬鹿にした様にあしらった。

「ね、お願い」
「あ? まぁ毎日はさすがに俺も予定があるからキツいけど…予定が空いてたら時間が許す限り音子と居てやるよ」
「ホント!?」
「あぁ…けど条件付き」
「な、何?」
「24日終業式だろ?」

 そう私達の学校は24日が終業式。そこから冬休みに入る。

「イブの日俺ん家、泊らねぇ? 24日、1日一緒に居よーぜ! で、そのまま25日もデートだ!」

 慧はいつになく笑顔だった。その慧の笑顔に素直に私は笑い返せなかった。
 24日…もう、終わってるんだよ? そう思うと涙が出そうだった。

「…音子?」

 慧が顔を覗き込んできた。

「なんか都合わりぃか?」
「…ううん…大丈夫だよ。イブね、いいよ…や、約束ね…」
「おう」

 この約束は果たせる事なんて無いんだ…。もう…一生無い…。
 だから今を大切にっ…。

「15日の日曜もデートしようね! んー、遊園地も行きたいし、クリスマスだからイルミネーションも見たいし、沢山行きたいとこある! ねね、慧はどこ行きたい?」
「おい、俺の予定を聞くのが先だろ?」
「えっ…15日空いてないの…?」
「いや別に空いてるけど…」
「なぁんだ空いてるんじゃん! ビックリさせないでよ、じゃあ遊園地ねー」
「俺にどこ行きたいとか聞くまででもねぇじゃねぇかよ」

 そう言って慧が微笑んだ。この時間を大切にしたい。

 出来るだけ…出来るだけ…。私はそれしか考えてなかった。