桜木は、ハッとして、すぐに窓から離れてしまった。
俺は、辺りを見回した。
俺以外、周りには誰もいなかった。
あるとしたら、俺の後ろにある古い体育倉庫だけだ。
期待して、いいのだろうか・・桜木は、俺を見ていたって。
浮かれてしまいそうになった時、
また、桜木のピアノが聞こえてきた。
「成海ー!!何やってんだー!!」
やべ、部活中だった。
遠くから顧問の先生に名前を叫ばれて、
俺はダッシュで、部員達が集まっているところへ戻った。
篤志の隣に並んだら、
ふにゃっとした変顔で、篤志が見てきた。
「ぶっっ。 なんて顔してんだ、篤志」
篤志は、さらに顔をふにゃっとさせた。
「笑いをこらえてんだよ。ばあか」
笑いをこらえているという篤志の変顔を見て、
顧問の先生の話を聞いている最中だというのに、
俺は、笑いがこらえきれず、笑ってしまった。
「成海!藤沢、聞いてんのか!
お前ら、外周プラス1な」
マジか・・
その日は、俺を見るたびにニヤける篤志と、
いつもより長い外周を
桜木のピアノを聞きながら走っていた。



