それから、
桜木は毎日放課後、音楽室でピアノを弾くようになった。
そして時々、グラウンドを眺めている。
俺は気になりながらも、いつもの練習メニューをこなしていた。
そして好タイムを出しまくっていた。
教室では、桜木とはほとんど接点がない。
もう目も合わなくなった。
話しかけることも、話しかけられることもない。
全くの平行線だ。
ただ、俺は放課後、
時々聞こえてくる桜木のピアノに癒されていた。
時々グラウンドを眺める桜木。
どんどん桜木への気持ちが、
膨らんでいった。
平行線というより、一方通行という言葉の方が、
正しいかもしれない。
そんな事を部活中考えていたら、
「成海。体育倉庫からさ、
ライン持ってきてよ」
突然篤志がそう言ってきた。
体育倉庫はここからだとグラウンドの反対側の隅にある。
「わかった」
「ダッシュで取ってこい」
はあ?
「わかったよ」
俺は、ダッシュせずにゆっくりと体育倉庫へ走った。



