金曜日、仕事で、良に会社に顔を出した。

応接室で待っていると、秘書の人が、お茶を持ってきた。

「大島さん、ちょっといいですか?」

「どうしたんですか?」

「あの…社長と、付き合ってるんですか?」

「…付き合ってるのとは、ちょっと違うかな」

「大島さんと出会ってから、社長は人が変わりました」

「え?」

「いつも幸せそうで、部下に対する接し方も、ずいぶん優しくなって…」

「そんなに前はきつかったんですか?」

「ええ、それはもう…厳しい人でした」

咳ばらいが聞こえた。

「誰が厳しいって?」

「ぁ…エッと、そうそう、部長が厳しいって。じゃあ、失礼します」

秘書は慌てて部屋を出て行った。私は、笑いが止まらなかった。

「まったく…美樹、用は済んだ?」

私と仕事場の人との態度の違いに、私はまた笑い出した。

「いつまで笑ってるんだよ」

「だって」

良は照れ隠しに、私の頭をクシャクシャっと撫でた。

私は、良の後姿を見つめた。

私はこの人を置いていけない…

空との約束の日がやってきた。

私は名刺を見つめて、ため息をついた。

玄関のチャイムが鳴った。

「あれ、こんな朝早くに、どうしたの?」

「今日は休み。今からちょっと、でかけないか?」

「今から?身支度できてないよ…」

「いいよ。できるまで待ってる」

私は急いで身支度を始めた。