10か月後、私は誰一人知らない街で、美空(みく)を産んだ。

半年は育児に専念したけど、そろそろ、仕事を探さなくては…

でも、こんなに小さな子供を抱えては、なかなか就職先が決まるはずもなく…

 もう、何件目だろう。

私はダメもとで、ゼミの講師の面接に向かった。

「失礼します」

「どうぞ、おかけください」

「はい」

下を向いていた面接官が、こちらを見てハッとした。

「久しぶりだな、美樹」

「…良。どうしてこんなところに?」

 良は、高校のときの同級生で、若いながら、社長になったとは聞いていた。

・・でもまさか、こんなところで会うとは、思ってもみなかった。

「オレの方が驚いたよ。お前、地元で、教師やってるって聞いてたから」

「うん。ちょっと、色々あってね…」

「・・・履歴書に、子供がいるって書いてあるけど、結婚したの?」

「…ううん。未婚の母ってやつ」

「そっか…うーん、子供は見てくれるとこある?」

「それが、なかなか保育園が決まらなくて…」

長い沈黙が流れる。

…あー、やっぱり駄目だよね。私は、ため息をついた。

「よし、採用するよ」

「エッ?」

意外な言葉にビックリして、良を見つめた。

「うちさ、塾だけじゃなくてさ、家庭教師もやってるんだ。保育園が見つかるまで、家庭教師やってくれる?」

「うん、でも、子供が…」

「子供のことは、心配しなくていいよ。美樹が仕事中は、オレが見てるよ」

「エッ、そんな…申し訳ないよ…」

「何言ってるんだよ。仕事しないと、生活できないでしょ?」

「うん」

「友達なんだからさ、頼ってよ。その方が、嬉しい。…時間が決まったら、連絡するよ」

「いろいろ、ありがとう」

「これから、よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」