「よかった…美月…」

暁は堪えていた涙を
流しながらそう言った。

そして一泣きし終えると

「結局、美月は全部
思い出せたのかな?」

答えが返ってくるはずのない
彼女に話し掛けながら
彼女を抱えて縁側に座った。


「見て見て綺麗な月だよ。
まぁ、美月には
敵わないけどね。
言っちゃった、恥ずかし。」

そんな事を言った所で
やはり返事はない。

「…美月はね、元々
只の獣だったんだよ。
びっくりでしょ?」


そして一人で話し始めた。






「獣だった美月が
森の中で怪我してて
死にそうだったから
俺が血を飲ませたんだ、
鬼の俺の血をね。
既に傍らにいた獣は
死んでたから、
あげなかったけど。
美月はみるみる
元気になって何処かへ
走ってっちゃってさ。
まぁ、元気になって
よかったと思って
そのまま放置してたんだ。

それからちょっとして
諏訪家の家来の家系に
見知らぬ女の子がいてさ、
誰かなって思ってたら、
美月でさ
びっくりしちゃったよ。」




月は静かに暁を照らした。




「なんで分かったかって?
そんなの分かるに
決まってるよ
自分の血をあげたんだから。
しかも姿が変わってて
更にびっくり
…ちゃっかり俺好みで。」

開かれることのない彼女の瞳を
寂しそうに見つめる。

「それで諏訪家の屋敷に
美月がきて、
鶴の恩返しか!って
一人で興奮してたんだけど
美月が突然
周りの皆を殺し始めて
びっくりしちゃったよ。
姿が変わって
記憶が
無くなっちゃったんだって
すぐ分かった。
でも、俺を殺すのを
止めてくれたのには感動した。
でなんで皆を
殺したのか考えたんだけど、
美月はきっと親を殺されたと
思ってその仕返しに
来たんじゃないかって
そしたら話が繋がるでしょ。
“美月の思い込み”
“美月が描いた物語”
それに無意識に
親を殺された怨みが
入ってたんだね、きっと。」