「……、」
潮の香りが髪を、頬を、撫でつけていく。
「港。」
「……っ…」
足が動かない。進めない。
思わず、逃げだす。
「港っ!!」
けれど、すぐに捕まってしまう。
「っや!!離して!!」
「っおい!!港!!」
私の腕を掴み逃がさないとするショウに抗う。
「離してっ!!会えないの!!会えないの!!お母さんは……、私のせいで死んだの!!」
「…………」
「私が、海の中にフィルムを投げたの……。そしたら、お母さんは海の中に入って………」
思いだしたくない記憶が蓋を開けたように溢れてくる。
私が撮った写真を海の中に投げた。
どうしようもなく、嫌で。嫌いになった“写真”
お母さんは、わき目もふらず一目散に海の中に入っていった。
やめて、と何度も叫んだ。大荒れの海の中にお母さんが必死にフィルムを探していて、見つけたのだろう。こちらに向かって微笑んだ瞬間、大波がお母さんを攫った。
___私が、殺した。
お父さんも、私のせいじゃないと言ってくれた。
誰もが、事故だと、言った。
けれど、悲しみのはけ口をお父さんは仕事にした。
ごめんな、と何度も言ってお父さんは仕事で海外にたった。
2人とも、写真家だった。
その影響でわたしも幼いころから“一眼レフ”を手にして撮っていた。
心が揺さぶられたモノに何度もシャッターを切って。
ある日、それが全部嫌になった。


