流れゆく景色が私にあることを思い出させた。
沈黙と化した車内にポツリ、と呟かれた言葉が響いた。
「……電車ってね、ワスレモノを届けてくれるんだって。」
「……うん。」
「ある人が、言ってたの。“電車はいろんな人を乗せていて、常に目的を持った人を乗せているの。でもね、時々何かを忘れてしまった人も乗せるの。
その人は、何かを探すために電車に乗るの。ワスレモノを探すために。”」
「……うん。」
「……私もワスレモノ、したんだ。大切なもの。でも、探せない。どこにあるかわからないの。だから、電車に乗ったの。
___でも、何にも見つからなかった。」
__残ったのは、喪失感。
違う、見つからなかったんじゃない。見つけたくないの。
見つけたくなんか、無いの____。
「………っやめる!!」
「!?ちょお!何言うとん!!」
「海なんて行かない!!行きたくない!!」
立ち上がり、ちょうど開いていた扉から外に出ようとする。
けど______
腕を掴まれて、広い胸に抱きこまれる。
プシューーーー・・・。
ゆっくりと扉が閉まっていく。そして、完全に閉まり電車が動き出した。
規則的なリズムで音が鳴る。
「……なんで、止めたの。」
「…………」
「ッなんでとめたのよぉ!!行かないっ!行きたくない!!離してっ!!」
「………港。」
「っやだ!!離してっ!会えない!!会えない!!」


