これはまずい・・・



離桜はいま、複数の浪士に囲まれていた。


いや、浪士に取り憑いたなにかに。



先程から剣を抜いて目の前の敵を斬っているのだが、切りがない。



これは確実に、私の存在が天界に知られたということなのだろう。

はたまた、アブリエルの可能性も高い。


だが、彼は前、私を迎えに来るといっていたはずでは?

なのに、こんな形で殺しにくるだろうか?



そう考えると、アブリエルではない。
やはり、天界に知られたのだ。

一番恐れていた事態が起こった。


その事と、これから起こるであろう厳しい鬼ごっこに背筋がぞくりとした。


やっぱり、新撰組を抜けてきて正解だった。



そんなことを思っていると不覚にも相手に後ろをとられてしまった。


「ぃっ」



直撃は免れたが避けきれなかったようだ


背中に熱を持った激痛が走る。


「っは、あ・・・」


あまりの痛さに、方膝をついて休みたかった。
でも、そんなことができるはずもなくて。

ただ、ひたすら剣を振るった。

それでも、なかなか敵の数は減らない。


もうダメか・・・
死に場所を選ぶこともできない、あっけない最期。


それが定め。


でも、最期に、最期の最期にもし神がこの私に慈悲を向けてくださるというのなら。


私の我が儘を、聞いてください・・・


隊長、会いたいです。
この私があなたを想うなんて罰当たりのこと、しちゃいけないのは分かってます。


その思いは胸に押し留めておくから。
だから、一目あなたに会いたい・・・



顔を歪ませながら剣を振るう姿は痛々しい。

でも、襲い掛かってくる浪士たちに心はない。
そんな離桜に手を差しのべてくれる人間など、もういないのだ。



浪士の一撃が離桜に襲いかかる。

それを、離桜は呆然と見つめた。
これで、終わる。
長かった。

17年。
辛かった。これからはその悲しみから解放される。


・・・やっと。これでいいんだ。



心は満たされているはずなのに、離桜の目から一筋の涙が流れた。