土方さんのその反応にまたため息をついた。

「・・・沖田さんにはさっき伝えました。」



顔をうつむかせてそういうと私は指をついて頭をさげた。


大きく深呼吸すると口を開いた。



「新選組脱退の、許可をいただきにまいりました。」


「ッ・・・お前、本気か。」


土方さんの声が低く、部屋に響いた。


「・・・はい。」



うつむいたままの私に土方さんの硬い声が聞こえた


「・・・理由は。
それによっては切腹もあり得る。」



理由・・・

それは、沖田さんたちに迷惑をかけたくないから。

でも、そんなことを言えるはずもなくて。


結局、てできた理由は当たり障りのないものだった。


「・・・やりたいことが見つかったんです」


「やりたいこと?」


「父が死に、宛もない旅をしていました。そして、新撰組にお世話になって、やりたいことが出来たんです。」


だから、離脱させてください。そう伝えた。


でも、普通、そんなことで離脱できるなんてありえない。


「・・・ちゃんと理由をいえ。」

「ですから、」

「ちげぇよ、本当の理由だよ!」


私の声を遮って、土方さんが声を荒げた。


「・・・」


「お前、そんなんで理由になってるとおもってんのか?」


土方さんは、私に詰めよって胸ぐらを掴む。


土方さんの目に剣呑さが宿る。

・・・さすがは鬼の副長。
こわい。


でも、それに怯んでいる場合じゃないんだ。
本当の理由。

あるよ、ちゃんとあります。
でもそれをいうことは出来ないから。

だから、汚い手段だけど、使わせてもらいます。


震える唇を開いた。
「・・・わたしが、女だから、です。」


土方さんが目を見開いて固まった。


掴んだ手を離しながら、哀しげに顔を歪めた。


「総司を頼むって、そう約束したじゃねぇかよ・・・」


その悲しげな呟きにぐっと唇を噛み締めた。


泣くな。
甘ったれるな。


こうなることは分かっていたじゃないか。

いずれ私はここにはいられなくなる。
なのに・・・


顔を伏せて、涙が溢れないように瞼を閉じた。


これは罰だ。


神が、中途半端な私に下した罰だ。
気持ちも、血も中途半端な半端者。


そんな私が生きていること自体が、罪なんだ・・・


私はこの世に産まれてきてはいかなかったのではないだろうか。


ならば、この人たちの手で死ねるなら、それほど嬉しいことはない。


だが、そんな願いさえも、罪だ。

私のためにこの人たちが手を汚すなんて・・・

それこそ罰当たりもいいところだ。


「・・・分かった。近藤さんには俺から伝えておく。」



「ありがとう、ございます」



「離桜、いままで・・・ありがとう」


「・・・!!ははっ。土方さんがお礼なんて、似合わないですよ。」


「・・・ふっ」


ほんと、土方さんには、誰かにお礼をいうなんて似合わない。

そんなこといったら失礼だろうか。


でも。そんな、哀しそうな顔しないで下さいよ・・・


「総司には言ったのか?」


「はい。『近藤さんと土方さんには言ったのか?』って、聴かれました。」


「そうか。・・・あいつも、素直じゃねぇなぁ・・・」



「・・・?」


最後の一言は聞き取れなかったが、沖田さんに向かっての言葉のような気がした。


「・・・土方さん。あの、私って、切腹ですか?」


その言葉に土方さんはきょとん、として、ははっと笑った。