誠の道ーキミと共にー

『そうよ、璃桜。
 上手よ。』




母の声が聞こえたような気がした。




音を奏でるといつの間にか、芹沢さんは静かになっていた。



「ほう・・・」



芹沢さんは、静かに
私の奏でる音に耳を傾けていた。




「・・・美しいものだな
 こうも美しいと思えたのは、何年ぶりだろうか。」


ボソッとつぶやいた言葉は、誰に届くでもなく消えた



シャラララン・・・

撥を一振りするし、上座で頭を下げ、いきなり響いた三味線の音に此方を振り返った女郎に、にこりと微笑んだ。


「舞を踊って頂けませんか?」


「え?」



女郎は突然の私の申し出に目を見開いた。

それもそうだろう、彼女とはなんの打ち合わせもしていない。

舞を合わせたこともないし、会ったのだって今日が初めてだ。



それにさっきの舞を芹沢さんにボロくそ言われたばかり。


踊ってほしいと言われても戸惑うのが当たり前だろう。



「私の三味線にあわせて、舞っていただけませんか?」



私の言葉にオロオロとしだす女郎。
隣の三味線を弾いていた女も驚きの表情を隠せない。

それは周りの人たちだって同じだ。
みんな、心配そうな視線を送ってくる。


「大丈夫です。いつも通り、踊ってください。舞が楽しいと思いながら。」



さっきの舞を視界のすみで見ていた。

周りからも緊張していのが伝わった。
それでなのだろう。
芹沢さんにさんざん言われてしまったのは。


あの藍屋さんの店の女郎だ。
あの人が、舞に自信のない女郎を送ってくるとは思わない。
芹沢さんはここらでも暴挙だと怖がられている。

そんな人に、舞が上手にできない女郎を送ったら何をされるか分かったものじゃない。


機嫌を損ね、お座敷で大暴れしてしまうかも。
そんなことは絶対に避けるはずだ。


だとしたら、


「あなたは、藍屋で一番の舞子じゃないですか?」


優しく、そう微笑んだ。


最初は戸惑っていた女郎だが、私にここまで言われると力強く頷いた。

それはまるで、なにかを自分に言い聞かせているよう。



女郎は芹沢さんにもう一度頭を下げた。


「もう一度、うちに舞を踊らせて下さい。」