キオクノカケラ

これじゃあ章さんからは助かったけど、

根本的な解決になってないよ……。


私は二人に聞こえないように小さくため息をつくと、

結城くんの腕から抜け出して、高みの見物をすることにした。

まだテーブルに運ばれていない料理を置いて。

椅子に腰掛ける。


「ふん、しつこい男は嫌われるぜ?」


「その言葉、そっくりそのまま君にお返ししますよ」


「生憎、オレはアンタと違うんでね」


「おや、今なら僕にだってチャンスはあるでしょう?」


「言っとくけど、誰にも渡すつもりはないぜ」


「ふふ、それはどうでしょうかね」


……………。

……何と言うか……。

よくもまあ、次から次へと言葉が浮かぶものだ。

もうため息しか出てこない。


挑戦的な笑みを浮かべながら、時々頬をひきつらせる結城くんと。

ずっと涼しげな笑みを崩さない章さん。

今も尚続く二人の冷戦は、いつまでたっても終戦を迎える気配がない。

はあ………。

本日何度目かのため息。


ふと、時計を見ると、8時30分過ぎを指していた。


てことは、もう10分以上言い争いしてるんじゃない……?

私がリビングに来たのが8時10分くらいで。

そこからいろいろあって。

多分20分くらいから今に………。

……………。

20分から、10分?

今8時30分??

学校って普通8時45分着席とかじゃなかったっけ?


急いで時計を見ると、もう35分。


…ヤバくない?

私は慌てて二人の仲裁に入って。

大丈夫だと言う結城くんを急かしながら、朝食を済ませ。

学校までダッシュする羽目になった。


結城くんと章さんの口論のおかげで。

朝から無駄な体力を使って、だいぶ疲れる大変な目に遭ったのだった。