キオクノカケラ

それに叔母さんも気づいたようで

一歩下がって手を下ろした。


「あなた、誰?どうして名前知ってるの?」


「申し遅れました。兎街結城と申します。今日はあなたにお話があって参りました。」


「話?私に?」


「そうです」


やっぱり怖い笑顔で、叔母さんに受け答えする結城くん。


敬語といい、その笑顔といい、

章さんにそっくり。

そんなことを思っていると、ふいに結城くんが振り向いた。


そして私の肩を抱き寄せると

髪を一房とって、口付けを落とした。


「話というのは、詩織をお譲り頂きたいのですが……いかがでしょう?」


「えっ?ちょっ…結城くん?!!」


何を言い出すかと思えば!


驚いて結城くんを見れば、不適に微笑まれて

章さんを見れば、何やら電話をしながらも微笑まれる。



こんなとこまでそっくりって……


ため息をつきながら半分呆れて、

もしかしたらこの家から解放されるかも

と半分希望を抱えた。

が、


「お断りするわ」


彼女の一言で、私の希望は音をたてて崩れ落ちた。


「…理由をお聞かせ願いたいですね」


気落ちしてる私に関わらず、至って冷静な結城くん。


けど、彼の声がさっきよりも低くなって、肩を抱く力が強くなったことに

叔母さんは気づいていないようだった。


「この娘にはこの家でやる仕事があるの。終わるまで手放すわけにはいかないわ」


彼女は私たちを見下すように言い放つと、冷ややかな視線を送った。


「詩織、家に入りなさい」


叔母さんは

また私に誘拐をさせる気なの?


お金のために、

何の罪もない子供たちを。


金持ちに売って、売り上げでギャンブルして

また足りなくなったら売る。



そんな身勝手な理由で……


もう、そんなことしたくない。


「詩織!!入りなさいって言ってるのよ!!!!」


ちっともその場から動こうとしない私に、苛立った様子で怒鳴りつける。