キオクノカケラ

私は窓のカーテンを閉めると袋から服を取り出した。

目の前に広げて見てみると

ベージュ色の生地に、腰のところにある茶色いレース編みのリボンが特徴の、

七分丈の可愛いワンピースだった。


サイズもぴったりで、当たり前だけど
私の服なんだ、って実感する。



さっきまで着ていた入院者が着る服を袋に入れて、ロビーに向かった。


先生に服を返さなきゃいけないから、呼んでもらいたいけど…



…名前が分からない。



聞いとけばよかったと後悔したけど、“後悔先にたたず”ってね。



軽くため息をついた私は、受付にいるお姉さんに渡してもらうことにした。


「すみません…」


「はい?診察ですか?それとも」


「あ、違うんです。これを…」


お姉さんの言葉を遮って、袋を差し出す。


「申し訳ありませんが、お見舞いの品は…」


「そうじゃなくて!私、神無月詩織といいます。私を診察してくれた先生に渡してもらいたいんです」


私はまた彼女の言葉を遮って、少し強めに言う。

人の話しを最後まで聞かない人…

と心の中で呟きながら。


「神無月さん……ああ、502号室の!分かりました。三澤先生への袋、お預かりします」


彼女は何か納得したように手を打つと、袋を受け取った。

あの先生、三澤先生って言うんだ。

私は彼女ににっこりと微笑むと、お礼を言って踵を返した。



病院を出るとすぐ前に、先に行っていた叔母さんが、車に乗って止まっていた。

乗っていいのか私が迷っていると、車の窓が開いて車内の冷たい風が頬をかすめた。


「何をぐずぐずしてるのよ!!早く乗りなさいよ!」


叔母さんは不機嫌そうに眉をひそめて、車内からいい放った。


どうしてこの人はこうも苛々しているのだろう

私だってそんなにいい人じゃない。

そういう態度をされれば腹がたつ。


でも帰る家が見つかったのだから、ここは我慢すべきところ

そう自分に言い聞かせて、車に乗り込んだ。



この時、私はこれから


どんなめに遭うかなんて


思ってもみなかった…