キオクノカケラ

そのまま声を殺して泣いた。


「っ…ひっく…ぅ……だれかぁ…っひっく……助けてよ…っ」


どれくらいそうやっていたんだろう…

気づいたら涙は止まっていて、窓からオレンジ色の光が射していた。

向こう側の建物で夕日は見えないけど、もう夕方なんだ。


ぼんやりと外を見つめていると、

バンッという音が部屋に響いた。

音のしたほうには、先程と同じように彼女が立っていた。


もうちょっと静かにドア開ければいいのに…


そんなことを心の中で呟いた。

さっき泣いたおかげでスッキリしたのか、余裕がでてきたみたい。


彼女の後ろから入ってきた先生は、私のベッドの隣にきて、微笑んだ。


「おめでとうございます。退院ですよ」


「退院……?」


私の質問にゆっくりと頷くと、彼女に手のひらを向けて、彼女を差した。


「この方はあなたの叔母にあたる方で、あなたを引き取って下さるそうですよ」


「叔母さん……ですか?」


「ええ、母方の妹さんだそうです」


お母さんの妹…


彼女は腕を組んで私を上から睨み付ける。


「さっさと支度してちょうだい。こっちだって忙しいのよ」

「私、車に乗ってるから」


吐き捨てるように言うと、彼女は部屋を出ていった。

先生は、出ていったドアを見て小さくため息をつくと、どこからか紙袋を取り出した。

それを私に手渡す。

袋を受け取り、中を見ると服が入っていた。


「それはあなたが着ていた服です。洗っておきましたからこれを着て下さい」


「はい…ありがとうございます」


頭を下げてお礼を言うと、先生は優しく微笑んだ。


「あなたのように、きちんとお礼を言える人ばかりなら、良いんですけどね…」


「?」


お礼くらいみんな言えると思うけど…

首を傾げて、不思議そうに先生を見ると、彼はニコと笑った。

そして、なんでもありませんよ。と苦笑すると看護師さんに呼ばれて行ってしまった。