キオクノカケラ

「あ、あの…」


正直怖かったけど、もしかしたら知り合いかもしれない

そう考えた私は思いきって控えめに尋ねた。


「あなた……誰ですか？」


「はあ？？」


彼女は眉をさらに吊り上げて手の力を強めた。


「っ………」


自分の顔が苦痛で歪んだのが分かる。

けど腕を離す気配はない。



それが一気に緩んで外されたとき、

彼女の見つめる先には先程の先生が立っていた。


「ちょっと！！どういうことよ、これ！！！」


今にも飛びかかりそうな勢いで彼を睨み付ける彼女を

私はズキズキする腕を撫でながら、見ていることしかできなかった。


「ですから、彼女は記憶喪失なんです」


先生は涼しいこの病院で冷や汗をかきながら必死に彼女をなだめる。


「記憶喪失？たかだかそんなので入院させてるの？！！」


病室に響き渡る声で、私を睨んでから先生を睨みつける。


「この娘の親はどこにいるの！！！」


先生につめよってまるで尋問のように彼女は叫ぶ。

先生は私の顔を見てから彼女を見て、そのまま

別室に行きましょう、と言って部屋を出ていった。


彼女も仕方なくついて行った。



またひとりになった。

まだ痛む腕に目をやると、赤く手のあとが痣になっていて、爪跡が皮膚をへこませていた。


「痛いはずだよ…これじゃあ」


私は苦笑した。


一体あの人は誰なんだろう…


両親はどこにいるの？


私に帰る家はあるの？


これからどうすればいいの？


頭の中で自問自答する。

この質問の答えは全部


……わからない……


何も思い出せなくて…

自分のことも分からなくて…

そんな自分に苛立ちを覚えて、不安になって、視界がぐらぐらと揺れてきたと思ったら

堪えきれず頬に冷たいものが伝った。


それが涙だと分かるのに少し時間がかかった。



私は体育座りをすると、膝を抱え込んで、その中に頭を埋めた。