しばらく景色を眺めた後、オレたちは部屋に戻った。


時計を見ると、もう10時をまわっていた。

オレと章よりも前を歩いて、時計を見た詩織は、心配そうにオレを見た。


「結城くん、私…やっぱり」
「帰るって言うのかい?」


彼女が言うよりも早く、言葉を重ねた。

彼女はゆっくりと頷く。


「詩織。お前はあんな家に帰りたいのか?」


「…………」


「ホントに、それでいいのか?帰ったってまた……同じようなめに遭うんだろ?」


最後の言葉は、自分でも驚くくらい低く、掠れていた。


彼女は俯いて、オレの目をみようとしない。


お前は、何をそんなにひとりで抱え込んでいるんだい?

オレにも、その重荷を分けてはくれないかい?


少し黙っていた彼女は、拳をぎゅっと握ると

オレの目を見た。


まっすぐにオレを見る夜明け色の瞳。

綺麗な眼をしている…。

その眼とは対照的に、顔は少し強張っていて、どこか不安げだった。


「…どうして?“そんなめ”って…あなた、何を知ってるの?」


「悪いね。少し、調べさせてもらったんだ」


「っ……全部?」


「全部…ではないかな」


そう答えると、微かにほっとしたように見えた。


まだ、何かあるのか……。


少し問い詰めようと彼女に向きなおす。

口を開きかけた途端、それを遮るように顔の前に手が現れた。


オレでも、詩織でもない手。


「章さん…」


「章、お前」


「話しは明日にしましょう。もう10時をまわっていますよ?」


口の両端を上げて、微笑む彼の顔は、

笑ってはいるけど、目が笑ってない。


詩織もそれに気がついたようで表情が凍っている。


仕方ない…今日は諦めるか


「そ、そうですよねっ。明日!!明日また話しましょう!!!」


彼女の一言で、今日はここでお開きになった。



もちろん、詩織を部屋に泊めて。