「ちょっと!何ぼやぼやしてんのよ!さっさと買い物行ってきな」


「え…。でも洗い物がまだ…」


「口答えするんじゃないわよ!!」


パンッ!

乾いた音が部屋に響いた。


「っ……」


それと同時に私の頬がジンジンと痛む。

頬が痛い…

でもそれ以前に

…心が痛い…


私は今から3ヶ月前にこの家に引き取られた。

私の叔父と叔母にあたる人だそうだ。

“だそうだ”っていうのは、私の記憶がないから。

そう、自分が誰なのかいまだに分からない。


一体、その時なにがあったのか

両親はどこにいるのか

全てが分からない…

叔父さんと叔母さんは私のことを知っていたみたいで、初めて会ったときに“詩織”と呼ばれた。

私は“詩織”って名前らしい。

でも、それもホントかどうか分からない。


「はあ…分かんないよ」


そんなことを考えながら歩いていると、もうスーパーの前に着いていた。

今さらだよね…その内思い出すだろうし…。

うん、大丈夫だよ。

よしっ、と意気込んでスーパーに入ろうと一歩踏み出すと、

「詩織……?」


ふいに名を呼ばれて振り返ると、数メートル先に自分と同い年くらいの少年が立っていた。


なんだか聞くだけでほっと心があったかくなるような。

そんな声…。

地毛であろう茶色の髪が風になびいている。

その人は私の名前を呼びながら、走ってきた。


「詩織っ!」


「わっ……」


手をグッと引き寄せられ、倒れそうになった私は、そのまま強く抱きしめられた。


「3ヶ月も…どこに行ってたんだよ?」

「えっ…ちょっと」

「学校にも来ないし、随分探したぜ?」

「あっあの…ちょっと待って」