「………呼んだかい?」


あるはずのない返事に、一瞬耳を疑った。

ゆっくりとドアの方を振り向く。


「っ……、なんで……」


それしか言葉が出なかった――。


振り向いた先には、紛れもなくたった今私が思い浮かべていた人が立っていて。


「オレのことを呼んだだろう?」


そう言いながら、彼は教室の中に入ってくる。


ずっと会いたかった、最愛の人。

その人が、今目の前にいる。

今すぐにでも、抱きつきたい。

でも出来なかった。


だって、それをしてしまったら、もう離せなくなってしまいそうで……。

彼が一歩近づく度に、私は一歩後ずさる。

それを数回繰り返すうちに、私は窓際へと追い詰められてしまった。

彼が歩くのに比例して、私たちの距離は縮まっていく。

そしてそれは、ゼロになった。


「っ!!」


「詩織……会いたかった………」


耳元に聞こえる、結城くんの少し掠れた声。

懐かしくて、心地いいぬくもり。

じわじわと目の奥が熱くなってくる。


泣くまいと唇を噛み締めても、視界はぼやけるばかりで。


このままじゃ…駄目……っ。


私は彼の身体へと伸びかけた両手を力強く握ると。

気持ち強めに、自分の身体から突き放した。


「……詩織…」


いつも勝ち気な彼には珍しく、弱々しい切なそうな声音。

俯いていたから、表情までは分からないけど。

絶対に声と同じだろう。