「……隼くん。
私、これで良かったのかな?」


背後に向かって話しかければ、影から隼くんが現れた。


「よく分かったな、俺がいるって」


「だって、そこに映ってたもの」


私はくるりと振り返ると、水道の鏡を指差した。

それを見た隼くんは、バツが悪そうな表情で頭を掻く。


…隼くんって、

頭悪いのに、要領だけはよくて。

行動力あって。

友達思いで。

それでいて、


「どっか抜けてるよね」


「あ?何だって?」


「ふふ、何でもなーい」


ぽつりと呟いた言葉は、彼には聞こえなかったらしい。

私は、クスクスと笑いながら。

もう一度、詩織ちゃんの去った方を向いた。



……結城くんは、このこと知ってるのかな…。



―――知ってるに決まってるよね。

学校中の噂だもん。


彼は一体どうするんだろう。

詩織ちゃん、自分以外の人を巻き込みたくないって顔してたから。

きっと、彼のこともあんな感じで突き放すだろうし。


でも…――、


「結城なら、きっとあいつを捕まえられる」


「……うん。
私もそう思う」



彼ならきっと、振りほどかれた腕を、もう一度掴むだろう。


どんなに拒絶されても、それが本心じゃないと分かってる以上。

絶対に離しはしない。


だから大丈夫。

私たちは、周りでできることをすればいい。


「隼くん」


「ん?」


「まずは情報収集だね!」


「おう」


私たちはお互いに頷くと、手を叩き合って別々の方向へと歩き出した。