長い沈黙が続く。
お互い何も言わず、廊下で向かい合っている私たちを横目に、何人かが横を通り過ぎて行った。
き、気まずい……。
自分で流れを持っていったくせに自分勝手だけど、かなり空気が重い。
でも、これは私が解決しなくちゃいけないこと。
恵たちを巻き込むわけにはいかない。
私は拳をぎゅっと握り締めると、意を決して口を開いた。
「……ごめん、ひどいこと言ったよね…。
でも、自分で決めたことだから…。
心配してくれて、ありがとう」
この時、私は決して恵から視線を逸らさなかった。
でも、私を見つめる彼女の瞳はとても綺麗で、真剣そのもの。
このまま、何だか心の中を見透かされてしまいそうで。
私は唇をぎゅっと噛み締めると、顔を俯けて視線を逸らした。
…だめだ……っ。
私、うまく笑えない…。
こんなんじゃ、理由を問い詰められちゃうよ。
………どうしよう。
問い詰められた時の言い訳を頭で巡らせながら、彼女の言葉を待つ。
「…詩織ちゃん」
とうとう良い言葉が浮かばないうちに、私は名前を呼ばれた。
私は無言のまま顔だけを上げる。
あ……れ…………?
すると、そこには予想に反して柔らかい笑みを浮かべた恵の姿があった。
もっと、真剣な顔か、悲しそうな顔を想像していたのに…。
全く正反対の表情に、私は戸惑う。
それに構わず、彼女は笑みを崩さないまま言った。
「詩織ちゃんが決めたことなら、私、信じるよ」
「恵……」
一瞬、何て言われたのか分からなかった。
でも、冷静になってみると、彼女の言葉は案外すんなりと頭に入っていく。
明らかに何か隠してそうな私を目の前に、彼女は信じると言ってくれた。
胸の奥がじんわりとして、目の奥が熱くなる。
それと同時に、鼻がつん、とした。
「ありが…と…」
私は、ただこれを言うのに精一杯で、顔を上げることができなかった。
ポタリ、と一粒涙が床に落ちる。
慌てて目を袖で拭うと、とびきりの笑顔で恵に別れを告げた。