少し太陽が傾いて、徐々に紅く染まる空を静かに眺めていると、ふいに彼が声をかけてきた。
「あなたは、一体詩織の何ですか?」
「………あんたこそ、詩織の何なんだい?」
窓から目を離さずに同じことを聞き返すと、男は小さく息をついた。
「質問に質問で返すのはどうかと思いますが……まぁ、いいでしょう。
僕は詩織の婚約者、ですよ」
―――何が婚約者だ。
5年前にあんなことをしておいて。
よくもそんなことが言えたもんだな。
内心そう毒づきながらも、オレは窓から目を離し、男に挑発的な笑みを向ける。
「婚約者って言っても、
〈元〉だろう?
―――柏木 健斗(かしわぎ けんと)さん」
確信を持ってそう言えば、男――柏木健斗は特に驚いた様子もなく、淡々と答えた。
「やはり…知っていたんですか」
「まあね。
オレの情報網を嘗めると、痛い目に遭うぜ?」
「――肝に銘じておきましょう」
そう笑う彼は、穏やかな口調とは裏腹に、目は全く笑っていなくて
ただ口元だけが微笑んでいた。
こいつ…―――。
章には悪いけど、似てるな。
この、どうも考えが読めないとことか。
笑い方。
敬語。
……そっくりだ。
そこまで考えたところで、ふっと笑みがこぼれた。
「何ですか?いきなり」
オレは、怪訝そうに眉をひそめた柏木を一瞥してから頬杖をつく。
そして彼を横目に見ながら言った。
「いや…章はそこまで性格悪くないかもって思っただけだよ。
少なくとも、お前よりはね」
“お前より”をわざと強調しても、彼は特に気にした様子もなく、
小さくため息をつきながら、背もたれに寄りかかった。
「何だい?ため息なんてついて」
今度はオレが眉をひそめて聞く番だ。
それに対して彼は、呆れたような、小馬鹿にしたような
その中間の笑みを浮かべて答えた。
「いいえ…案外子どもっぽいところもあるんだと思って」
その言葉を聞いてオレは確信した。
――こいつは絶対、性格悪い。