ここは

マンションでも上の階だろう。

夜風に舞うカーテンの向こうに

雲に霞んだ三日月が見える。



「なぁ・・起きてる?」

「・・うん、何?」


「此処まで運んで来るの、

大変やったんちゃうん?

・・ごめんな?」



クスっと

笑う息遣いが後ろで聞こえた。

この笑いがどう云う意味を

持つのか和祇に興味は沸かず

ただ黙って彼の言葉を待った。



「この前は俺、

ヒドイ事云った・・。」


「ん・・・?

あぁ、気にしてたん?」


「うん」

「ほんまの事やから。」



彼の向きが

変わったよな布擦れの音。

そして、普段なら気付かない

小さな溜息。



「朝子さんって人と会ったよ。」

「え・・!?」


「朝、

ナギの部屋の前で待ってた。」



正木を追い掛けて来たのだろう。

彼はちゃんと穏やかに話しを

進められただろうか?



「お腹のコの事、聞いた。」

「そう・・。」



この流れで

神足が朝子の話をするのだ。


予想はしていた、

あの彼女が何も言わなかった

事はないだろうし。


それに、朝子が

何を知っていると云うのだ。



「だったらもう

優しくせんといて・・

自分の事、

惨めなんて思いたくない・・。」



一度引っ込んだ

涙がまた溢れてきた。

声を漏らさず、

鼻をグズらないように手で塞ぐ。



「・・・ナギ?」

「ん・・?」

「俺、傍に居たいよ。」

「ええ・・? フフ、何それ。」



隣にいるやん。と思い、

つい笑ったその拍子に

鼻をズルっと言わせてしまった。


泣き笑いしてる最中、

彼が労わるかに背中を抱く。


不思議と

いやらしさは感じさせず・・

お腹に回された両手、

後ろ髪に埋まる顔、


そして暖かい背中が

とても心地よく感じるのだ。