「・・・!」


彼女の口を、たった1本の指で

黙らせた。聞いてほしかった。


「・・もう、泣かせたりしない

からって・・、オヤジさんにも

ちゃんと誓って来たんだ・・。」



彼女だって去って行った手前、

意地もあるだろう。でもそれは

逃げられた俺も同じだった・・。



「ムリもして欲しくない・・

頼むから一緒に居てくれ・・。」



俺には解っていた。ナギが何を

不安に思っているか・・。

期待させて、

また流産したりしたら・・。

そんな恐れだったんだろう。



「俺・・前に云ったよね?

子供が欲しいってンじゃない

ってさ・・。でも折角だから、

2人でがんばってみねえ・・?」


「・・・・。」


「ダメでもまた次があるよ・・、

そんなの・・、いつものナギ

らしくないじゃん。・・だろ?」



彼女はあの日、泥酔してたから

俺が流産した事実を知るのを、

実は知らないのだ。


だからこそ、余計躊躇っている。

そして今、呆気に取られていた。



「ちゃんと覚悟して・・

初めて女を追って来たんだ。」



俺は・・他人の運転する車で

普段なかなか回せない口を、

出来る限り懸命に回した。

そこまで云うのが精一杯だった。



「だから・・ずっと・・

着いて来てくんないか・・?」


「・・・・・!」


そしてもう一度、彼女が一度は

その指にはめた指輪を取出した。

手に取った左手に・・

黙ってそれをはめさせたのだ。

それでも・・まだ躊躇っていた。



「神足さんが後々、後悔せん

かったらええねんけど・・。」



「誤解だな、色々あったけど、

俺、後悔なんて一度もないよ?」



事実だった。俺を黒岩の言う

"いい顔"にしたのは彼女だと・・

ちゃんと解っていたし。



「これからまだどんどん

ブクブク、太ってくるんやで?

それでもええのん・・?」


「ふふ、楽しみだ」