「お前さん・・、前より人間

臭くなったな。でも、

そうでなくっちゃいけない。」



「俺も・・昔ほど若くないって

事ですかね。ふふ。」



彼は一時、

アメリカのド田舎で

ヒッピー生活をしていた男だ。


黒岩の云う事は以外と重い。

酸いも甘いも知っている・・

そんな陳腐な表現じゃ、彼と

云う男を言い表す事はできない。



「フケ込むにはまだ早いだろ?

俺の立場がないってもんだ。」



そう云って笑った彼と、俺は

さほど冷えてなかったビールを

飲みながら煙草に火を着けてた



「正直に云おうか?」

「・・え?」

「FREE COOLの時よりずっとさ。」



俺は顔を上げ、ニヤケ顔を見た。

彼の視線は既に灰皿へと

移っており、意図の掴めぬまま

黙視する他なかった。



「神戸でお前さんと、久々に

会った時な、正直思ったんだ。

"イイ顔になってきやがった"

ってさ。で、同時に思ったさ。

俺もとうとう、

"コレが解る様な歳になっちま

ったか"ってな・・! ハハッ。」



「・・・・。」



じゃあ・・以前の俺は

どうだったんだ?

どんな顔で人前でギターを弾き、

歌っていたと云うのだろうか。



"ギターさ、凄く・・

愛おしそうに弾くんやね"


昔、そんな事を俺に云って

くれた女の顔がチラついた。



「・・人の詩は人が歌うんだ、

人以外、歌えやしないんだから。

・・それでいいンじゃないの?」



飄々と、いつもの彼の締め括り。



「そのチラシさ・・、気が向い

たら早めに連絡頂戴よ・・ね。」



瓶の中身を最後まで飲み干すと

立ち上がって大きなノビをする。


「埋まらない事を祈ってるよ。」



茶目っ気たっぷりにウィンクを

してドアを閉めて出ていった・・。