異様な盛り上がりを見せる

会場内、オモシロくない男。


ヴォーカルはマイクに向った

まま、左手に1本指を突き

出しては高々と揚げた。


それが合図であったかに

ギターソロが始まると

フロントマンである筈の彼が

ギターを外しステージを降りて

行く。そんな彼の後姿を他の

連中は演奏したまま笑ってた。


観客らも慣れた様子で口笛を

吹いたりクスクスと笑ったり、



"やるぞ、アイツ"



そう云って周りの兵士達は

ニヤニヤと遠巻きに見てる。



「来いよ、新入り」



そう云うが早いか、

ギラつく眼の光を放ち

驚きを隠せないでいる酔っ払い

の首根っこをグイと掴み上げ。


薄汚いトイレのドアを蹴り開け

新顔兵士の膝裏を蹴飛ばし、

鳩尾に拳を一発叩き込み

そのままの勢いで便器の中へ。


フタを閉めたら

ボコるだけボコって

またステージに戻ってく。


ギターを抱え、

両サイドの奴らと拳を軽くブツ

け合った後、何事も無かったかに

また続きを歌い出そうとする。



「・・・!!」




第一声を発しようとして、ビクリ。

頬杖を付いたままだった俺の体は

大きく揺らいでいた。



( 何で今頃・・? )



新神戸から乗った新幹線の席。


俺はまるでほんのひと時、

過去にタイム・スリップした

気がして・・

人知れずクスリと笑っていた。




( ・・もう直ぐ大阪か )