・・そんなこんなで、

取り合えず会場入りした俺達。


「おはようございます。」


誰だかも解らない若い連中が

緊張の面持ちで

軽く頭、下げーのしたりして。


ゴオ君が居るとそこからピリリ

と空気が変わってくるからだ。


彼のステージ前の威圧的な

この雰囲気がずっと変わらない

のがナンだか嬉しいと思う。


そしてマネージャーと合流。

ナギちゃんは彼から

B-PASSを首に掛けて貰ってた。



「喉、渇いたな」


「そういや、ここ、

嫌に乾燥してない?」


「待ってて、何か取って来る」



控え室に入る前、俺達の為に

彼女は裏手の大きな待合室へ。


大手食料品の会社が提供で

菓子パン、飲み物などが

山ほど置いてあると聞いたから。


「直ぐやし。」


そう云ってた筈のナギちゃん。

10分以上経っても帰って来ない。

目と鼻の先で迷い様もないのに。


「・・・・?」


ギターを手に、ドアをチラリと

見遣るゴオ君。心配性だなァ。



「俺、トイレ行くから

ついでに見といてあげるよ。」


「・・悪い。」



・・クックックッ。

本当は自分が行きたいクセに。


でも・・行ってみて良かった。

彼女がそこでダボタボの服に

行く手を阻まれていたからだ。



「ケー番位いいじゃん。」

「憶えてないから」

「メアドぐらいあんでしょ?」

「あの、もう・・。」



なんだ? 

あのヒップ・ホップな若造は。

こんなトコでナンパ?

まさか、有得えなくない?



「ナギちゃ・・、」


「わかんねえのかなァ?

タイプじゃないんだってのぅ♪」



「「「・・・・・・!」」」



傍でポロロンとギターを鳴らし、

いきなり即興で歌いだしたのは

"ミスター・黒岩"だった。


今じゃ鳴かず飛ばずだが、

かつて"日本ロック界の帝王"と

云われた程の男である。