「5分待ってて?」


私の言葉に、哲平は私の目をじっと見てくる。


相手の目をじっと見るのは、哲平の癖だ。


私の言葉に、彼なりに答えたつもりなのかもしれない。


……ただし、いつもとは違う方法で。


私の肩に腕を回して、ピッタリとくっついてきた。


「!」


え、ちょ…!?


予想もしていなかった哲平の行動に、私はプチパニック。


「あーこれ、意味わかんなかったよね」


なんて言いながら、哲平は講義ノートを一緒に覗き込み始めた。


普段は人前で触れてくることなんてないから、思いっきり戸惑ってしまう。


質問してきた男子も、物珍しげに興味津々な表情で私たちを見てる。


う、これは恥ずかしい…!


この状況を回避せねば…!


「て、哲平?重い…」


私なりの精一杯の照れ隠し。


必死にポーカーフェイスを決め込む。


「………」


哲平は私の顔をじっと見て、スルッと離れる。


そして、そのまま何も言わずに講義室を出ていってしまった。