涙の理由を、君は知らない


無理矢理涙を止めて、何事もなかったかのように振る舞う。

彼の髪をわしゃわしゃする。


「アイロン、使ってあげてね」


「…もじゃもじゃしたの好きって言ってなかった?」

彼が聞く。




「…すき、」



この、「すき」の中に込めた想いを、君が汲み取ってくれればいいのにね。




「……バス乗り場、結構人並んでるけど、行かなくていいの?」

「んー…バス来たら並ぶよ」


尚も彼の髪を撫で続けながら答える。

君といる時間と、帰りのバスで座れるか否かを天秤にかけたら、余裕で前者の勝ちだ。



「………」

「泣かないのぉー」


子供をあやすように彼が言う。


「…泣いてないよ」


滲んだ涙を拭った。



遠くで、バスのエンジン音がきこえる。

一生、来なくていいのに。


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