涙の理由を、君は知らない


駅ビルを出て、別のファッションビルへと向かう。
彼の自転車は置きっぱなしで、二人で歩く。

土曜日の夜、交差点で信号待ちをしている人の中にはカップルが多い。みんな、幸せそう。

私たちも、そんなふうに見えてたらいいんだけどね。


軽車両用の信号が変わって、自動車と自転車が動き始める。


「――あっ!」


私たちの正面の道から来たタクシーが左に曲がり、そこから横断歩道を渡ろうとしていた自転車とぶつかりそうになった。


「あぶねーな」


幸い事故にはならなかったものの、少しひやりとした。


「そういえば、私この前自転車でオッサンとぶつかったんだよねー」


「うわ、出たよ自転車乗るの下手な人。オッサンかわいそー」


笑いながら彼が言う。
歩行者用の信号が青になる。

人込みの中で、人にぶつからないように、彼が私の服をさりげなく引っ張って誘導してくれた。



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